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浦和地方裁判所 平成4年(わ)814号 決定 1992年11月10日

主文

被告人につき平成四年九月三〇日浦和地方裁判所裁判官が発付した勾留状記載の勾留場所について、代用監獄越谷警察署留置場とあるのを、浦和拘置支所に変更する。

理由

一本件は、被告人がみだりに営利の目的をもって、向精神薬を含有する医薬品ネルボン錠を有償譲渡したという麻薬及び向精神薬取締法違反の事案により、平成四年一〇月一九日付で公訴提起されたものであるが、被告人は未だ代用監獄である越谷警察署留置場に勾留されているものである。

二ところで、起訴後の被告人の勾留場所については、実務上拘置所を原則とする運用がなされており、従って、起訴後も引き続き代用監獄に勾留するには、その必要性及び相当性につき、それらを基礎づける特段の事情を要すると考えられる。

そこで、右特段の事情につき検討するに、検察官は、被告人には多数回にわたる同種余罪があり、その余罪捜査においては、関係者の供述の比較対照、裏付け吟味の必要及び関係書類・証拠物等を被告人に示しての確認などを実施する必要を主張する。しかしながら、勾留場所を浦和拘置支所に変更することによって、今後の捜査に対して若干の支障が生じることは予想されるものの、余罪の罪質や右の捜査予定等を勘案すると、被告人を代用監獄に勾留を継続する必要性は必ずしも高度のものとは認められない。

また、起訴後の被告人に対する余罪取調べは、その対象となる事実につき逮捕・勾留されているものではない以上、あくまで任意に被告人がこれに応ずる場合に許容されるものであると解されるところ、本件については、検察官は余罪につき逮捕・勾留する予定はないことを明らかにしており、また、弁護人作成の「移監に関する上申書」及び「移監上申の理由書」と各題する書面によれば、被告人は、取調官から執拗に威迫的言動を受けた旨を弁護人に訴えているかのようにも窺えるのであって、右訴えの存すること自体が被告人の意に反する取調べが行われている蓋然性を指し示しているということができる。しかも、本件の第一回公判期日は平成四年一二月一五日に指定されており、現段階においても第一回公判までは、なお相当の日時があるのであって、長期間にわたり、右のような状況下に被告人を置くことには疑問があり、従って、その相当性も認められないといわざるを得ない。

三以上のとおり、本件については、起訴後の被告人の勾留を代用監獄において継続させることについては、その必要性も相当性も認められないと考えられるので、職権により、被告人の勾留場所を、勾留状記載の越谷警察署留置場から、浦和拘置支所に変更することとする。

(裁判官藤田広美)

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